ノーベル平和賞・ムクウェグ医師を描いた映画「女を修理する男」から考えたコンゴの性暴力と紛争鉱物問題に私たちができること

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ノーベル平和賞を受賞したコンゴ民主共和国の婦人科医・ムクウェグ医師の活動を描いたドキュメンタリー映画「女を修理する男」が富山で上映され、娘たちと一緒に見てきました。「女性にとって最悪の場所」といわれるコンゴで活動するムクウェグ医師から感じたこと、考えたことをご紹介します。

【画像は、デニ・ムクウェゲ医師ノーベル平和賞受賞記念『女を修理する男』上映会&講演会 〜他人事を自分事に〜より引用】

映画「女を修理する男」とは

「女を修理する男」は、2015年のベルギー映画です。

20年以上紛争が続くコンゴで、婦人科医のデニ・ムクウェゲ医師が性暴力を受けた女性たちを治療し、世界に現状を訴える命がけの活動を描いています。

日本では、「コンゴの性暴力と紛争を考える会」などの活動で、2016年から大学などで上映がはじまりました。

なおコンゴでは、「軍のイメージを意図的に傷つけている」として、上映が禁止されているそうです。

映画の背景となるコンゴの現状

安上がりな兵器

コンゴ民主共和国はアフリカ大陸の中部に位置し、アフリカで2番目に広い国です。
人口はおよそ7,700万人紛争で600万人もの人が死亡し、武装勢力によるレイプの被害にあった女性は 40万人以上と言われています。

このレイプは性欲を発散するための単純な性暴力ではなく、性器に発砲したり、性器を切り裂いて尿道・膣・肛門をつなげるなど、信じがたい残忍さです。

また、性暴力の対象は生後数ヶ月の赤ん坊から90代まで。それも、村の女性を全員連れ去り性奴隷にする、家族の前で母親を犯す、息子に母親を犯すよう強要するといったやりかたです。

なぜ、このような方法をとるのかというと、地域の住民を恐怖に陥れて支配するためです。

出産や育児を担い、優秀な労働力である女性をターゲットにして、家族・地域でのひとのつながりや経済基盤を壊します。女性の性器を破壊することで人口は増やせなくなり、コミュニティは崩壊します。

性暴力は、低予算で実行可能かつ破壊力抜群のテロリズムとして利用されています。

「紛争鉱物」を巡る争い

では、なぜ、地域住人を支配する必要があるのでしょうか。

その背景が、天然資源の奪い合いです。

コンゴ東部には、手付かずの熱帯雨林が広がります。そのしたには金、銅、スズ、コバルト、ダイヤモンド、タンタルなど天然資源が眠っています。

これらの鉱物は、採掘して売られ、現地の武装勢力の資金となっています。

もともと民族間の争いに近隣諸国の干渉があったところに、なまじ豊かな天然資源があったばかりに、その奪い合いから争いはますます激化していきました。

こうした紛争に加担することが危惧される鉱物は「紛争鉱物」と呼ばれ、特にはコンゴやコンゴと接する国々で採掘されるスズ・タンタル・タングステン・金の4種の鉱物を指します。

天然資源を手に入れるには、その土地に住む人々は邪魔な存在です。

そこで組織的な性暴力による支配が行われます。

地域の住民は追い出されるか、奴隷労働者として鉱物の採掘に駆り出されます。

また、「人間地雷探知機」のような使い捨て業務に従事することもあります。

戦いのなか今も信じられる迷信

コンゴには、処女膜を破ってその血にふれると成功する、とか、爆弾から身を守るとか、という言い伝えが古くからあるそうです。

それを信じる男性に赤ん坊や少女が狙われ、膣の破裂や絶命の被害に合っています。

ムクウェゲ医師の情報発信

ムクウェゲ医師は1998年、コンゴ東部のブカブにパンジー病院を設立しました。

これまで、4万人とも5万人ともいわれるレイプ被害者を治療し、精神的ケアを施し続けています。

ムクウェゲ医師は、ある8歳でレイプされた女の子の治療をしながら、

「手術室から出て、原因の根本的な解決を世界に呼びかけよう」

と決意したそうです。

その子の母親もムクウェゲ医師が治療したレイプ被害者で、今回の8歳の女の子はレイプによって生まれた子供だったのです。

それから、ムクウェゲ医師は、情報発信に力を入れていきます。

世界各地で演説を行い、2016年には日本にも訪れています。

2012年、国連本部でコンゴの惨状を訴えたひと月後には暗殺未遂があり、一時亡命しましたが、コンゴの女性たちの呼びかけで翌年にはコンゴに戻り、活動を続けています。

積極的な情報発信のかいあって、こうした活動は国際社会に知られ、評価を受け、国連人権賞(2008年)、ヒラリー・クリントン賞(2014年)、サハロフ賞(2014年)、ノーベル平和賞(2018年)などを受賞しました。

「男はどこへ行った?」

この映画で、女性たちの惨状を見ながら、ずっと引っかかっていた疑問がありました。

その疑問は、映画の終盤で、ムクウェゲ医師自身が住民に呼びかけていました。

「男はどこへ行った?」

夫は妻を守らず、父親は娘を守らない。さらにレイプされた妻や娘は、夫や父親から差別され追い出されることが多いというのです。

男性同士といえど相手は武装していて、逆らえば命の危険があるわけですから、家族を守るのが大変なのは分かります。

でもそれは女性も同じです。そんな中で、自らを奮い立たせ、立ち直ろうと努力し、子供や家族を養おうと働いています。

一方で、鉱物資源を奪い合い、暴力で支配し、処女を犯し、家族を置いて逃げ、傷ついた妻や娘を捨てる男性たち。

性暴力を実行した男性たちも、見た目はぜんぜん普通です。どうして、あんな恐ろしいことを実行できるようになるのでしょう。

やるせないものを感じました。

「生きていればできることがある」

印象的な被害女性の言葉もありました。

洋裁でつくったものや作物を売ってお金をため、土地と家を買ったレイプ被害者の女性が、

「辛いけれど、生きていればできることがある」

と笑顔を見せた場面です。

状況はいまだ厳しく、辛い日々でしょう。でも、生きることを諦めずにいてほしいと心から願います。

政情不安と治安の悪化

今も、性暴力への罰は驚くほど軽く、お金を払えば免責され、大物は起訴されないそうです。

娘たちは、性暴力が続く現状を見て「政府はなにをやっているんだ」「警察は?」と驚いていました。

映画は4年前の状況でしたが、今も政情は不安定で治安の悪い状態が続きます。

本日の外務省の危険情報では「不要不急の渡航は止めてください」というレベル2から「退避勧告」のレベル4まで。外務省HPで概況は以下のように紹介されています。

コンゴ民主共和国東部地域は,歴史的な部族対立,天然資源を巡る武装勢力の対立,周辺国の介入等により,1990年代初めより不安定な情勢が継続してきた。

国際社会による調停や国連による介入旅団の投入の結果,情勢は改善傾向にあるが,ルワンダ,ウガンダ等に逃亡した反政府勢力の武装解除・国内帰還は必ずしも順調ではなく,課題は残る。

今年に入ってからのニュースも以下のような見出しが並びます。

「コンゴ民主共和国のエボラ死者、400人超に」(2019年1月16日 )

「コンゴ民主共和国西部で2018年2月16~18日、民族間の衝突が発生し、少なくとも890人が死亡した」(2019年1月17日)

コンゴ民主共和国、大統領選再集計の是非判断へ (2019年1月18日

本来、天然資源が豊かなら、その恩恵はインフラ整備や雇用創出、福祉といったかたちで、その国の人々が享受できるはずです。

「女性が最も幸せ」と言われ「労働生産性」の高さで知られる北欧では、油田など豊富な天然資源が一人当たりGDPを引き上げる要因となり、豊かな暮らしを後押ししています。

コンゴでも政情と治安が安定し、天然資源や肥えた土地の恩恵を国民が受けとり幸せの国となるために、私たちはどうしたらいいのでしょう。

私たちができること

コンゴに関心を持つ

恥ずかしながら、私は知人を通じてこの映画のチラシを見るまで、コンゴの性暴力がここまてひどいとは知りませんでした。

ムクウェゲ医師がノーベル平和賞を受賞したときも、「偉いお医者さんだな」程度で、講演活動などで来日されたことも知りませんでした。

ただ、私は以前からアフリカの女性差別、特に女性性器切除の風習に反対していたこともあり、このチラシを見たときに関心をもったわけです。

コンゴの悲劇については報道も国際支援も少なく、国際社会の無関心が問題を大きくしたと指摘されています。

私自身も関心が低く、知らないことがありすぎて反省しました。

買うものを選ぶ

紛争鉱物は世界的に問題視され、人権侵害等の不正にかかわる紛争鉱物を原材料購入しない動きが進んでいます。

例えば、トヨタは「トヨタの紛争鉱物問題に対する取り組み」 を発表しています。

私たちは消費者として、食品の材料表示を確かめるように、自分たちが使う自動車やスマホなどの原料の調達先に意識を向けることができます。

スマホやパソコンはリサイクルに出す

希少な鉱物は、電子機器に多く使われます。リサイクルすれば、それだけ武装勢力の資金源をへらすことに繋がります。

寄付する

さまざまな団体が、コンゴへの人道的支援のための寄付を募っています。

経済的状況が許せば金銭を寄付をすることも、コンゴの市民やムクウェゲ医師への支援に繋がります。

身近な暴力に気を配る

マザー・テレサの有名な逸話があります。

「世界平和のためにわたしたちはどんなことをしたらいいですか」

と尋ねられたときに

「家に帰って家族を大切にしてあげてください」

と答えたそうです。

遠いアフリカ・コンゴの性暴力を直接止めることができなくても、身近な家族や近所の人、友人を暴力から守ることはできるかもしれません。

例えば、以下のようなことはどうでしょう。

  • おかしい?と思ったら関心をもつ
  • 軽い気持ちで繰り出されるセクハラに立ち向かう
  • もしも身近な人が性暴力にあっても、被害者を絶対に責めない

などなど。「遠すぎて関係ない話」で済ませず、

「think globally, act locally(世界規模で考え、身近なところで行動)」

という気持ちを忘れずにいきたいものです。

上演情報など

この映画とムクウェゲ医師の活動に関心のある方へ。

以下のサイトで上演情報が紹介されています。

cinemo(シネモ)「女を修理する男」

また、以下はムクウェゲ医師の活動を描いた別のドキュメンタリー番組です

ムクウェゲ医師の闘い ~なぜ、コンゴの悲劇は終わらないのか(ザ・フォーカス 2019年2月放送)

※チューリップテレビ(富山)では、2019年2/15(金)深夜2時49分から放送の予定。

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